一回片頭痛が出ると、大体36時間くらい使い物にならない中元です。甘んじて受け止めて、積読していた本を読むのが一番建設的ですね。
さて。なんだかんだで遂に10週目だ。70日間ずっと同じ本を読み続けるとか、学校の教科書以来のことである。
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段々と話も現代に近付いてきており、時折出てくる科学者の中に、僕が生まれてから亡くなったような人も現れるようになった。
しかしまだまだ、ビッグバンモデルが主流となる見込みはない。そのうえ、定常不変モデルに新たな大黒柱が築かれようとしている段階ときたもんだ。
これは目が離せない。一気に読めればいいな。GW、暇だし。
ってことで以下、本編である。
- 5月2日(月) 塞翁が馬
- 5月3日(火) 無限ループ
- 5月4日(水) 神は何を創りたもうたのか
- 5月5日(木) 議論と口論のグレーゾーン
- 5月6日(金) まさにカオス
- 5月7日(土) やっぱり、まさに、カオス
- 5月8日(日) パラダイム・シフト
5月2日(月) 塞翁が馬
ホイル氏はいわゆる神童の例にやはり漏れず、学校教育に興味を示さなかったという。その代わりサイレント映画に入り浸り、そこで教養を得たようだ。
しかし周囲からの説得があったのか、しぶしぶ学校教育に力を入れて、そのまま優秀な生徒として表彰されたり、奨学金を得たり、すぐに勝ち組ルートに乗ったのだ。
ただ、時代がそのまま進むことを許さなかった。彼の学業は、やはり戦争によって中断されたのだ。脳が一番働く時期のこの不可抗力を、彼は相当思い悩んだらしい。
だが、人生はやはり、塞翁が馬。彼はそこで、ともに新たな宇宙モデルを構築する、二人の盟友と出会うのであった。
軍の命令による研究を終えた後は、一か所に集まり、天文学について議論を交わしあう。戦争が終わったのちも、この関係は続いた。
そして結果、彼らは赤方偏移を起こしつつも、定常不変を死守できる、新たなモデルを構築することに成功するのであった。
5月3日(火) 無限ループ
ホイルの共同研究者の一人であるトーマス・ゴールドが発案人となって打ち出されたのは、「無限ループ」によるアイデアであった。
水蒸気が雲となり、雨として降りそそぎまた水蒸気となるように、僕らの体内の細胞が絶えず入れ替わるように、定常不変とは同時に流動的たり得るのだ。
宇宙もまた同じで、拡大している、遠ざかっている、赤方偏移しているのは事実としても、絶えず広がった空間を埋める"なにか"が出ているはずだ、と。
とある映画のストーリーから着想を得たこのアイデアは、他の二人にとっても突拍子もない奇天烈なものであった。
しかしどれだけ議論を重ねても、反駁するどころか、説得力が増し続けることに三人とも気が付いたという。
そう、ここに、ビッグバンモデルにとっては最大の敵となる理論が誕生した、まさにその瞬間であった。
5月4日(水) 神は何を創りたもうたのか
当然、現実世界を正しく説明できているだけで、理論と認められることはない。当然懐疑の目は向けられるし、敵陣からは攻撃もされる。
例えばガモフは結構な皮肉屋かつ口が悪い性質で、結構痛烈な風刺も混ぜつつ、三人の議論を攻撃することさえあった。
加えて、ホイルの過去の科学に対する疑義や皮肉なども影響し、この直観に反しまくっている定常不変モデルのアップグレード版(定常宇宙論)も好意的とは言い難かった。
やはり必要なのは観測によるエビデンスの発見だ。だが、技術がそれに追いついていなかった。
だからしばらくは、両陣営の両陣営に対する舌戦こそが、唯一この時代にできうることだったといえるのかもしれない。
ちなみにやや有名な話だが、ビッグバンモデルという名称の由来は、もともとはホイル氏が放った皮肉が始まりとなる。
これについては、本書に登場してから詳しく書こうと思う。
5月5日(木) 議論と口論のグレーゾーン
決定的な決め手となる観測でデータが得られるまで、できることは限られている。そして理論を詰める作業が済んでくると、両陣営の叩き合いになるのは世の常らしい。
ホイルは積極的にラジオに出たり、一般向けの本を書いたりと、科学の知見の普及と、ビッグバンモデルのネガキャンに打ち込んだようだ。
一方似たことはガモフもやっていたようで、結果二人とも、【一般世間に科学を広めてくれてありがとう】的な賞を受賞することとになっている。(年度はさすがに違うが)
そしてそのやりあいの中でホイルが発したのが、【ビッグバン(なんていうクソみたいな)モデル】という名前なのだ。
声のトーンから察するに、非常に不快そうな具合で放ったようだが、結果それが皆の心をがっちりつかんだらしく、広く普及することに至ったという。
皮肉だけど、面白い話である。
5月6日(金) まさにカオス
ビッグバンモデルと定常宇宙モデルがバチバチに悪口を言い合っている最中に、新たな勢力が加入し、事態はより一層カオスになった。
教会が、「ビッグバンを支持する」という態度を表明したのだ。ちなみに理由は、創造主がいたという聖書の中身にも通じるところがあるから、らしい。
科学と宗教を結びつけるともいえるこの表明は、ガリレオの先例があったのもあり、結構な反発を招く結果になったのだという。(当然か)
そうして各陣営がしっちゃかめっちゃかな論争と反論を繰り返し続けた結果、パブリックコメントも巻き込んだ規模にまで拡大。
もはや科学的論争の域を超えたカオスにまで、この炎は燃え滾っていくのであった。
5月7日(土) やっぱり、まさに、カオス
個人的な思想を超えて、どちらの論を唱えるかには、様々な思惑やしがらみが関わるようになっていった。
先述の教皇による表明しかり、さらにはソ連による統制しかり。ここは、指導者が正しいと思う方が、絶対的に正しいという場所なのだ。
それに反するような行動をとれば強制労働に回されたり、死刑にされたりと、人権などまるでない世界がそこに広がっていた。
技術の停滞は、思った以上の激烈なカオスを招く。人の生き死さえも、関わってくる。この混乱はまだまだ、終わりそうもない。
5月8日(日) パラダイム・シフト
地球中心モデル(天動説)から太陽中心モデル(地動説)への変遷にも、紆余曲折が確かに存在した。
地球中心が正しいという前提に立ちすぎて、円運動に円運動を重ねたような軌道を考案し、結果実際の測定に全く使えないどころか、科学の原則にすら反したあのやり取り。
それにより、太陽中心モデルが登場するようになり最初は旧勢力に反対されるも、強力な物証・論理が発見されて、まずは若い世代の認知を得ることから始まった。
そのうえで年数を重ね、惨い話だが旧勢力が全員天国に行ってから、パラダイムシフトは完了したといってもいい。
今回のビッグバンモデルと定常宇宙モデルの対立は、ある種パラダイムシフトの真っ最中であり、どちらの論を支持するかは各人の嗜好が大きかったという。
物証がない限り、決定打はなく、いかなるパラダイムシフトも起こりえない。ここの論争に終止符を打つ発見は、果たしていつ登場するのだろうか。
ってことで今週はこの辺で。