「観察力の鍛え方」及び、著者の佐渡島庸平氏の考え方の影響で、「バイアス」についての勉強が最近ずっと面白い。
「頑張れ!」とか「お前ならやれる!」という能天気な声掛けに頼らず、自分にも生徒にも健全な施策を打つためには、もはや必須の知識だとさえ考えている。
ちなみに「バイアス(特に認知バイアス)」とは、以下の様に説明されている。
認知バイアス(にんちバイアス、英: cognitive bias)とは、物事の判断が、直感やこれまでの経験にもとづく先入観によって非合理的になる心理現象のこと
例えば、「東大卒」と聞くだけで、その人が何か天上人の様に見えて、やることなすこと全てが無条件で神の御業に見えてくるのも、認知バイアスの一つである。
また、天災などに遭遇した際、何故か「俺は大丈夫」という風に、避難すべき場面でも冷静になって行動を止めてしまうのも、その一つだと説明されている。
そしてこういったバイアスの中には、知らず知らずのうちに勉強・学習を思い切り阻害しかねない厄介なものも存在しているわけで。
ということで今日は、正直認知バイアスなのかどうか微妙なヤツも混ざっているが、講師なら知っておきたいバイアスを3つほど紹介しておこうと思う。
流暢性の罠(ファインマン効果)
実はこのブログの黎明期に何度も紹介してきたバイアス(?)である。簡単に言えば、「人はわからないことをわかっている風に思い込みがち」という話だ。
例えば、模試の復習か何かで、分厚い解答解説を読み込むと、それだけで賢くなったかのような感覚を得られるが、これこそが流暢性の罠の最たる例である。
わかり易く面白い説明を受ける、解説を読む。それだけで分かったと錯覚し、復習を怠る。そういう性質を持つ、もはや厄介なバイアスの1つだと、僕は考えている。
ちなみにこの罠は単元の指導以外でもちょこちょこ発生する。自己啓発本を読んで満足し行動を変えない。勉強法だけ調べて満足し、何もしない、という風に。
だからこそ、僕は生徒の「わかった!」というリアクションを実はほとんど信じていない。体感値だが、6割くらいはわかってないのにそう言っている。
尚、これを打破する方法は割と簡単だ。目の前で、得た知識を実演させる。あるいは、自分で使ってみる。これだけだ。
授業後には必ず演習をさせる。勉強法の指導を入れたら、必ず自学の時間を設けて実際に行わせる。この心がけ一つで、この辺は大幅に軽減させることができる。
「わかりやすい」という評価は確かに耳さわりが良いが、それがつまり生徒の成績向上を同時に担保するかどうかは話が別だ。皆様も一度自戒してみてほしい。
パーキンソンの法則(及び現在バイアス)
これは、夏休みの宿題がなぜ最後まで終わらないかの説明となるバイアスたちである。せっかくなので、2つまとめて紹介しよう。
まずはパーキンソンの法則について。これを簡単に言うと、「目先の作業は、与えられた時間に応じて増大する」というものである。
例えば、目先の宿題を片づけるのに1時間掛かると想定すると、実際は15分程度で終わるとしても、本当に1時間掛かる。そういう話である。
僕自身もその厄介さを強く感じているのだが、人はマジで時間の見積もりが下手だ。大体、想定よりだいぶ早く終わるか、逆に物凄く時間が掛かるか、どちらかである。
そして時間感覚についてこのバイアスを発動したままだと、現在バイアスという別のそれの影響を一層受けやすくなる。こちらは説明を引用すると、こんな具合だ。
将来の利益より現在の利益を重視して、行動を先延ばしする心理傾向
要するに、乱暴に言えば未来のための努力をずるずると先延ばししてしまうことである。そもそもこういう思考の癖があるから、夏休みの宿題は取り掛かり辛いのだ。
これらを打破するにはどうすればいいかというと、月並みな方法だが、目標を細切れにして、時間制限を設けたうえで取り掛かる、というのが一番ラクだ。
さっきの例で言えば、「夏休みの宿題を終わらせる!」と誓っても、目標が全く具体的でないばかりか、期限も無いのだから、絶対に取り掛からないのは自明である。
だからまず、目線を変える。「夏休みの宿題を7月中に終わらせるにはどれくらいがノルマになるか」を調べるのだ。
一番ラクなのは、単純に使える日数で総量を割ればいい。しかしそれをズルズルやると、パーキンソンの法則が発動し、非効率的になる。
だからこそ、適当でいいので、「15分で見積もりを出そう」という作業に転換して、タイマーを作動の上でとりあえず始めることをオススメする。
今すぐ取り掛かれる作業にまで細分化し、そして時間制限を設けたうえで取り組む。シンプルだが、効果絶大な対策だ。
ちなみに、1日にやる量まで算出したら、最終的なゴールは日頃、忘れておくくらいがちょうどいい。
これまた手垢だらけの例えだが、毎日英単語に30個触れれば、2ヶ月弱で大学受験レベルの単語帳全てに目を通せることになる。
しかし、最初から「あと1740語」といった風に最終ゴールをずっと意識すると、現在バイアスが発動し、心が折れてしまうのだ。
毎日30語やってれば、勝手にゴールに辿り着くと自分で計算したうえでの日課なのだから、それを信じて1日1日の目標にだけ集中すればいい。
まぁ僕自身、それができるようになったのは最近なのだが、結果それが一番メンタルに優しく、しかも確実に成長できる方法だと感じている。
ネガティビティバイアス
こちらは使い方と解釈次第でどちらにも転ぶのだが、あらゆる情報が悲惨な未来を担保するように見えてしまうバイアスのことである。
例えば、LINEの返信が来ないだけで、「俺のことを嫌っているのか」と思うのがそう。極めて精神衛生上よろしくない、不健康な思考だと言える。
ただし、このバイアスを狙って発動させたり、あるいは解除の仕方を知っていたりすれば、武器にも転用可能となる考え方だと僕は捉えている。
狙って発動させる場面は、例えば学習や作業の詰めの段階において、である。十分だと思ったタイミングで、もうひと踏ん張り欲しいときがそうだ。
「ここで終わって本当にいいのか?」と自問し、あえて自分を不安にすることで、甘い部分に気付いたり、それを修正できたりするからだ。
そしてもっと重要なのが、解除の仕方だ。ネガティビティバイアスが発動したままだと、猜疑心全開で世の中を渡ることになり、生きててマジでめんどくさい。
これについては、短期の手段と、長期の手段があるので、せっかくだから両方紹介しておこうと思う。
短期の手段は、目の前のことに1分で良いから集中して、思考を切ることである。ネガティビティバイアスの9割は、言ってしまえば妄想だ。
その妄想を断ち切るには、自分に対する声掛けを密にするよりも、目先の行動に意識をグッと向けてしまう方が手っ取り早い。
そうして妄想モードと言い換えてもいいネガティビティバイアスが和らいだタイミングで、「じゃ、これからどうしよっか」と自問するのが、短期の方法だ。
長期となると、ネガティビティバイアスは大体妄想だぞというのを、データの蓄積で自分に認識させることがその術となる。
今はこのブログがあるので止めてしまったが、昔は四行日記というものをExcelに打ち込んでいた。
また、下園氏が提唱するサイコーの評価法というのも、試してみたがかなりよさそうであった。
こうやって、自分の思考を言葉にして、さらに時間をおいて検証したものをデータとして蓄積しておけば、段々とバイアスの存在を意識できるようになる。
体感では1ヶ月程度継続すると、「あ、ネガティブに考えてる!」という風に自覚できるようになった手応えがあるので、まずはそこまで継続するのがイイかと思う。
終わりに。
バイアスを知っておく、学んでおくことの意義は、そもそも何なのか。したり顔で生徒にその存在を語って、どうなるというのだろうか。
ぶっちゃけ、そう自問したこともあるのだが、その上で僕は、バイアスを学ばないのは、言ってしまえば一つの怠慢ではないかと思うに至っている。
生徒が不安に囚われている、焦燥に支配されている。そんなときの声掛けに「がんばれ!」としか言えないのはまずいだろうと考えているためだ。
講師たるもの五者たれという格言があるが、その中の1つの「医者」の部分に関係するのではないかと、今は感じている。
知っておいて損は無い知識だし、自分の認知の歪みを正す際にも役立つ、有益な情報だと思う。一度じっくり、学んでみてほしい。
では今日はこの辺で。