「秘密ってのはな、バラされたくない人間がいるから、秘密ってんだよ」みたいなセリフを、龍が如く6で聞いた。当時は特に何も思わなかったが、今は別の感想を持つ。
バラされたくない人間と、バラしたい人間が同時に存在する情報。それこそが【価値】を持った秘密なのではないか、と。だから人類は、早々に暗号を考え付いたのだ。
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バラされたくない人間がいるというだけでは、それが価値を持つことは無い。例えば僕が個人的な秘密を手紙か何かに書き残しても、それは無価値もいいところだ。
一方、「知りたい!」という欲は、ときに強固なモチベーションとなり、新たな技術の開発や、気が遠くなるような努力を、人々に生じさせる原動力ともなる。
バラしたい人間。バラされたくない人間。暗号を媒体として、彩り豊かな人間ドラマが繰り広げられているように、僕は感じている。
てことで今週もガツガツと始めていくことにしよう。
- 8月19日(月) 先駆者。
- 8月20日(火) パトロンの重要さ。
- 8月21日(水) 「ということは」の強さ。
- 8月22日(木) 続・「ということは」の強さ。
- 8月23日(金) 決着で終わらない戦い。
- 8月24日(土) 暗号解読者という封印された名誉。
- 8月25日(日) 新時代。
8月19日(月) 先駆者。
1800年代に入る頃には、新しい技術の登場と時を同じくして、なかなかにキテレツな人が登場したことも幸運だったらしい。
チャールズ・バベッジという人もその一人だ。裕福な家庭に生まれながらも、独創的なアイデア、そして実行力に秀でた人物だったという。
例えば郵便システムの料金体制に疑義を挟むなど、常識に囚われない物言いさえできた彼は、ある驚くべきアイテムの作成に着手した。
それは広義のコンピューターである。人力による計算は、その手間とミスの多さによって大きく足を引っ張る。
それが原動力というのだから面白いのだが、技術の大半は楽したいという願望から生まれると思えば、納得の流れではある。
8月20日(火) パトロンの重要さ。
バベッジの迸る情熱を妨げたのは、英国からの支援打ちきり通告であった。軍艦が2つ作れるくらいの予算を投じても完成をみないマシーンに、匙を投げたのだ。
バベッジが考えていたのはある種のアルゴリズムであり、特定の命令を完遂するまで、マシーンが稼働し続けるようなカラクリになっていたようだ。
形ある機械としての完成には至らなかったが、そのアイデアそのものは後世に伝わり、今にも至る根幹的な考えとなっている。
そしてバベッジ自身は、実は子供の頃から暗号を破ることが大好きだったという話もあるという。
暗号とマシーン。二つが繋がると何が起こるのか。楽しみで仕方がない。
8月21日(水) 「ということは」の強さ。
【例文でわかりやすく】「帰納」と「演繹」の意味と違いを徹底解説【ロジカルシンキング】社会人の教養
「ということは」という気づきは、荒唐無稽なこともあるが、ときにとんでもないアイデアの兆しであることも多い。
演繹も帰納も、最後のまとめの前には「ということは」が置かれる。そして何かしらの帰結がその後に出てくる、と。
バベッジの暗号解読も、まさに「ということは」の積み重ねだった。このタイプの暗号が使われている、ということは、という風に。
昨今の入試は特に、抽象的な思考ができないと解けないものが多いのだが、その大切さがよくわかる一例だと感じる。
8月22日(木) 続・「ということは」の強さ。
バベッジ自身は、どうにもキテレツな人という印象を持ちがちだが、極めて論理的なアプローチで複合型の暗号に挑んでいた。
まずは何かしらのパターンが存在しないかを見極める。それを確認したら、そのパターンから導き出せる可能性を考える。
複合型暗号は、その化けの皮さえ剥がしてしまえば、重ね掛けされた単暗号に過ぎない。バベッジの考え方を端的に言えば、こんな風になる。
これを読むと、物事をシンプルに考えることと、負けず嫌いな感じを発揮することは、同時に発揮を求められる、そんなスキルのように思えてくる。
矮小化も考えものだが、難問ほどどこかナメてかかるくらいでいいのかもしれない。
8月23日(金) 決着で終わらない戦い。
推論、代入、演繹……。これらを辛抱強く繰り返すことで、難攻不落の暗号が、終に解読に至る。
となると、今度はまた新たな、より堅牢な暗号を生み出すニーズがそこに生じる。破られた暗号に価値はないからだ。
そしてこのとき、大体19世紀の終わり頃だ。世界がまもなく大戦に入ろうという時期であり、暗号の重要さがまた跳ね上がるタイミングだと言える。
8月24日(土) 暗号解読者という封印された名誉。
バベッジの発見は、実はその当時は秘匿され、公に発表されることは無かったそうだ。それはイギリス当局が、それを封印するよう依頼したという背景があるらしい。
ではそうした理由は何なのか。それこそ、暗号を軍事利用しようという魂胆が、軍部内に生じたためだとされる。折しも時期は、先述したが第一次世界大戦前の頃だ。
敵に伝わらないように情報を味方に伝え、より有利な状況を生み出し、出し抜く。逆に、相手の情報は解読し、それを踏まえた作戦を練り上げる。
すなわち、暗号といういわばクイズの代名詞・代表格みたいなものが、一国の戦局を大きく左右し得るものになったということだ。
いよいよ暗号解読も、動乱期の話に転じていくのかもしれない。
8月25日(日) 新時代。
バベッジ達が活躍したおかげで、堅牢強固とされた暗号も決してそうではないと証明された頃、暗号自体を巡る環境にも変化が訪れていた。
それはコモディティ化だ。電報や郵便のようなシステムの発達により、一般大衆においても、暗号が大事だと認知され始めたのだ。
そこで求められるのは何よりも利便性であり、堅牢であろうと送信と解読に莫大な手間が要されるなら、それは不要のものなのだ。
ニーズあるところに進歩あり。暗号が再び急激な進化を果たすのは、もはや必然なのだと思わされる。
では今週はこの辺で。