数学をテーマにした本は、これまでいくつも読んできた。【フェルマーの最終定理】【素数の音楽】【暗号解読】【ケプラー予想】等々。
それらの本は著者も訳者もバラバラなのに、不思議なことに結構な共通点をそこに見出せる。今回で言うと、共通鍵暗号が、実はそうなのだ。
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【素数の音楽】の終盤に、RSAの名前は登場する。現代のセキュリティの中核を成す共通鍵暗号にも、素数は用いられているということを伝えるためのエピソードだと思う。
一つのことをあらゆるソースから学ぶと、学習効率が高まるという。それに関して、僕はその通りだと感じている。なぜなら今まさに、自分の学びが深まっているからだ。
今日もまた、自分の中のネットワークが繋がり、広大なものに変わることを願いながら、本書を読み進めていこうと思う。では以下本題。
- 12月2日(月) RSAASRSRA...
- 12月3日(火) Factorization in prime numbers
- 12月4日(水) 数の超暴力。
- 12月5日(木) トレードオフ。
- 12月6日(金) 共通鍵の真のオリジン。
- 12月7日(土) 誰とも相容れないが故の天才。
- 12月8日(日) 疑いこそが始まり。
12月2日(月) RSAASRSRA...
暗号の発端は、これまた弛緩し切った時間に訪れた。パーティーに呼ばれ、しこたま聞し召して帰ってきた一人だったが、ろくに寝付けず、数学の雑誌を読んでいたそうだ。
インスピレーションはそのとき突如訪れた。その手応えを忘れないために直ぐ論文の起草に取り掛かり、そして明け方には一本のそれができていたそうだ。
ディフィーとヘルマンのアイデアを”実際に可能にする”方法が産声を上げた瞬間だった。その着想はチームの一人、レオナルド・エーデルマンに追認されている。
その後、発見者の名前を取ってRSA暗号となったのだが、当初はエーデルマンが自分の名前を載せることに抵抗し、すったもんだで”この順”になったという。
ここでいう発見者は3人おり、それぞれの名前は、「ロナルド・リベスト、アディ・シャミア、レオナルド・エーデルマン」である。
数学で散見するのだが、人の名前を冠した定義・公式というのはなぜいつまでも厨二心をくすぐるカッコよさを帯びているのかと、改めて思ってしまった。
12月3日(火) Factorization in prime numbers
共通鍵の堅牢さを保証するのは、巨大な素数同士を掛け合わせて作り出される数だ。これはいうのは簡単だが、解くのは非常に難しい。
ChatGPTに5桁の素数を2つ尋ねてみた。そしてそれを掛け合わせた数も聞いてみた。
5桁の素数2つ
10007と10009
それらを掛け合わせた結果
10007×10009=100160063
―これだけなら「だから何?」という話だが、「100160063」という数値だけからその素因数を括り出すのは、やってみるとわかるが人力不可能レベルの計算量になる。
そしてそれは機械も同じで、桁数が増えたものを掛け合わせた結果、長大な数字が出来上がると、演算に猛烈な負担と時間が必要となってしまうのだ。
現代暗号技術の中枢に、純粋数学が盛り込まれた瞬間。これは歓迎すべきことなのか、否か。やはりガウスは、眉間に皺をよせたのではないかと思うのだが、どうか。
12月4日(水) 数の超暴力。
必要十分な時間を掛ければ、どんな数も計算できたり、どんな低確率な事象も発生させたりできる。そんなテーマを突き詰めた命題に、「無限の猿」というものがある。
猿という存在が適当にタイプライターを叩いても、”必要十分な時間さえあれば”、確率的には「ハムレット」を”たまたま”打ち出すという話だ。
この必要十分な時間というものが曲者で、シンプルに考えたら、宇宙の年齢程度の時間を掛けても、出ない確率の方が超絶圧倒的に高いほどだ。
超巨大な素数と素数を掛け合わせた数をノーヒントで分解することのセキュリティは、この数の圧倒的暴力によって成り立っている。
全世界のコンピュータを統合して計算に当たっても数千年掛かると言われるRSA暗号。天文学的数字さえも超越した桁数には、ただただ圧倒されるしかない。
12月5日(木) トレードオフ。
巨大な数を、巨大な素数に分解するのはやはり至難の業だ。それはもう不可能の域に、限りなく近い。
実際初期のRSA暗号は、そこから17年かけて、最新技術を用いた有志の攻撃によって解かれたが、これでもそう、初期のものなのだ。
桁をさらに増やせば、現代の計算力をもってしてもまず破られないだろう。そもそも破る方がコストとして高くつく。
新しくて堅牢な暗号の完成と登場。ちなみにRSAの三人は、それをピザなどを頼んでパーティーを開き、祝したそうだ。
12月6日(金) 共通鍵の真のオリジン。
ディフィー・ヘルマンの鍵配送。このアイデアは彼らが第一人者として認識されているが、実は歴史において、それに先んじていた人物がいたという。
ではなぜそれが秘匿されたのかというと、その人物が属していたのが諜報機関だから、という感じだ。つまり戦後に存在ごと隠されたものの1つだったのである。
彼の名は「ジェームズ・エリス」というそうだが、ネットを探してもその情報は極めて乏しく、隠されている間に多くの情報が消えてしまったのだと伺える。
ジェームズは生まれてすぐに世界各国を渡り歩くような生活スタイルを送っていたらしく、その内に理科への興味を爆発させ、その学びを深めていったのだそうだ。
そして物理を専攻して計算等に秀でた彼は、諜報機関(暗号を取り扱う部署)へスカウトされ、そこで研究に打ち込むことになるのであった。
12月7日(土) 誰とも相容れないが故の天才。
ジェームズ・エリス氏は風変わりな天才という言葉そのものの人物であり、独創性なアイデアを毎日猛烈な勢いではじき出すタイプの叡智だったそうだ。
そしてジャンルを問わずあらゆる論文や雑誌に目を通し、広大な知識を獲得していたことから、「困ったらエリスに聞け」というのがチーム内の合言葉だったそうだ。
―ただしそんな風にエキセントリックな性格をしていたからこそ、リーダーには向かず、あくまで一本独鈷の孤高の天才という感じで仕事に邁進していたそうだ。
その風変りさは、不思議と↑の写真からも透けて見えるように僕は思うのだが、皆様はいかがだろうか。
12月8日(日) 疑いこそが始まり。
ジェームス・エリスの信条は、命題が与えられたとき、それ自体の必要性からまずは疑うというのがあったという。端的に言えば、「本当に要るの?」が起点になるのだ。
例えば暗号を解読するための鍵をどう分配するか、という方法には、「鍵は物理的に配るもの」「双方で同じものを持ち合うもの」という前提や先入観が乗る。
そのバイアスを意識の力ではなく一つのシステムとして打ち破るために、彼はこんな自問自答から思索を開始するようになったのではないかと思っている。
エキセントリックな思考ができる人は、バイアスにとてつもなく強い。そのことがよくわかるエピソードではないかと思っている。
では今週はこの辺で。