【歴史思考】という本が好きだ。平易な文体でわかりやすいのは勿論なのだが、その優しい言葉遣いの中に込められた教えの懐の大きさに、強く感動するためだ。
歴史は一人一人の物語がネットワーク上に繋がって紡がれていく。となれば、偉業を成し遂げた人がいたとして、それが独力で果たされることは決してあり得ない、となる。
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例えばアンドリュー・ワイルズは屋根裏で独り研究に没頭したという逸話があるが、彼が駆使した数学の土台となった理論を打ち立てたのは、また別の天才数学者なのだ。
もちろん、フェルマーの最終定理の証明を果たしたワイルズは偉大だ。だが、だからといってそれに貢献した、ネットワークの一つたる人の働きを無下にしてはいけない。
本書を読んで、水面下に隠された膨大な物語を紐解くうちに、そういった念がどんどん強まっている。なんと学びに溢れた本なのだろう。
ということで今週も読み進めていくこととしよう。
- 12月16日(月) 熱狂・狂奔・陶酔。
- 12月17日(火) VS権力。
- 12月18日(水) 最強のミックス。
- 12月19日(木) 誰から来た何?
- 12月20日(金) 発射。
- 12月21日(土) 正義とは。
- 12月22日(日) 正義と不義。
12月16日(月) 熱狂・狂奔・陶酔。

ジマーマンという科学者がいる。彼は冷戦最中を経験した物で、思想として反核の運動家だったそうだ。
彼は核の影響が届かない場所への移住を考えていたが、最終的には祖国アメリカに残り、核と戦う道を選んでいる。
その後冷戦が終結すると、彼はインターネットの台頭による情報社会において、政府と戦うべく暗号の研究に打ち込むことを決めたそうだ。
熱狂が生むエネルギーはすさまじい。そこに陶酔が加わると、さらに激しく燃え上がるのは自明だ。彼の情熱は何を激しく燃やすことになるのだろうか。
12月17日(火) VS権力。

ジマーマンが目指したのは、万人が暗号の便利さを享受できる世界だ。
政府や軍部だけが暗号技術を使えるということは、市井の人達には常に、権力者側からの傍受のリスクがまとわりつくこととなる。
その最たる原因は、RSA暗号を扱えるスペックのパソコンが大衆化していなかったことだ。これをジマーマンは、問題の解釈を変えて取り組んだ。
性能の低いPCでもRSA暗号を扱えるようなプログラムをつくる。彼の挑戦は、権力に対する反骨から始まるのであった。
12月18日(水) 最強のミックス。

コピー能力ミックス | スペシャル能力 | 星のカービィポータル
ジマーマンの懸念は、RSAの堅牢さを保ちながらやり取りをすると、一つのテキストを送る度に数分は待たされるという点にあった。コンピュータのスペック不足だ。
これをどうやって彼は克服したのか。それは、昔ながらの暗号と、公開鍵方式の、ハイブリッドである。
フランス革命の頃も使われていたシンプルな暗号は、その鍵をどう渡すかという課題があったものの、セキュリティ綿で言えば悪くないものを持っていた。
その鍵(大体はそんなに長くない文字列)を公開鍵で暗号化して、元の暗号と同時に送れば、早さと堅牢さを両立できるのではないか。
シンプルだが、だからこそ反論が入り込む余地の無い方法。含蓄のあるエピソードだと感じる。
12月19日(木) 誰から来た何?

公開鍵のある意味盲点だった弱点に、「署名」の問題がある。送り主がきちんと本人なのか、それを確認する術が意外と無いのだ。
電子メールが飛び交う世界だと、いちいち署名など付けていられない。だからこそ本人を騙る第三者をどう選別するかも、ジマーマンの懸念となった。
暗号と署名。完全に相容れない組み合わせにも見えるこれらの問題に、彼はどう立ち向かったのだろうか。
12月20日(金) 発射。

その人独自の鍵ごと、メッセージを公開鍵で暗号化し送信することで、署名問題を解決する。
ジマーマンのアイデアはやはりシンプルで、それゆえに見事だという印象を持つ。これにより、彼のプログラムは完成を見たのだ。
だが、彼には懸念があった。それはRSAの特許問題と、政府が発した、市井への管理・監視・傍受を強めるというメッセージだ。
だから彼は、プログラムの流布を急いだ。ジマーマンのプログラム、PGPが遂に、世に放たれたのであった。
12月21日(土) 正義とは。

ジマーマンのアイデアは、はじめは一部のギークに刺さり、そして次第にインターネット界隈に広まっていった。
そのムーブメントはさらに広がり、人権保護活動団体などが、政府からの傍受を防ぎながらやり取りをする際に歓迎されていった。
もちろんこの流れを、無許可で広められたといえるRSA側や政府が黙っているハズがなかった。そして遂に、ジマーマンのもとを訪れる人影があった……
12月22日(日) 正義と不義。

ジマーマンのしたことは、罪の重さで言うならば国外への武器の密輸に匹敵するという。そして彼は、FBIの訴追を受けることとなる……
ここで激化したのは、プライバシーや暗号にまつわる論争だ。どこまで認めて、どこまでは干渉を許すのか。
PGPはあらゆる人に暗号というロックを授けたが、その中にはテロリストなども含まれてしまう。故に彼は、武器商人とさえ言われたのだ。
プライバシーを守り抜くと、犯罪計画に荷担しうる。なんと難しい論争だろうか。
では今週はこの辺で。