自分の内面を観察するという習慣ができて以来、「なんか普段と思考が違うな」と感じた際は、それを説明するようなバイアスが無いか、探すようにしている。
意識的にメガネをかけ替えるためには、そのバイアスの正体をきちんと認識しておく必要があるためだ。説明がつけば、理解度はグッと増す。
そして最近、「なるほど、面白いな」と思ったバイアスがある。それは、【ギャップ効果】である。
このバイアスは、上手く機能すれば生徒や上司からの評価を爆上げさせられるかもしれないのだが、失敗すると嫌な奴に成り下がる、諸刃の剣だ。
今日はこれについて、つらつらと書いてみよう。
低い評価を裏切ると好感度爆上がり。
ギャップ萌えという言葉もあることから、このバイアスの知名度は非常に高いと思われる。いわゆる、「不良が席を譲れば超良い人に見える現象」のことだ。
これ自体は、現実世界においても、狙って(特に異性からの)好感度を爆上げするためには、むしろ狙って自己演出すべしと説く指南書さえ存在する。
そして面白いことに、こうやって期待値をどん底からスタートし、そこからオセロみたいにひっくり返すと、その高い好感度は長期間持続するというオマケつきなのだ。
ソースは不明だが、ずっと優秀で素敵な行動を取り続けた人のそれをも上回るくらい、一度ひっくり返すという要素を挟んだ評価は、高止まりする傾向にあるらしい。
・・・ここだけ切り取れば、このギャップ効果には、もはや良いことしかないように思えてくる。実際、「ギャップ効果 対策」で調べても、ほぼヒットしないくらいである。
ただ僕は、これにもダークサイドがあると感じている。それは、本当にろくでもない人を見極めるのが、大変難しくなるということだ。
例えば、普段全然仕事をしない人がいるとする。ラグビーみたいに猛烈な勢いで仕事のパスを繰り返し、それでいて定時になる前にさっさと帰るタイプ。
こういうのは不満を抱かれて当然なのだが、その人がたまに仕事を肩代わりしたり、部下を帰らせたりすると、どうなるか。評価がバグってしまうのだ。
「普段仕事しないのに、こんないい面もあるんだ・・」という風に。なんというか、DVをするようなダメ男から離れられない女性の心理に通ずるものがある。
そして世の中には、これを分かっててやる人もいるだろう。いくら日頃サボって仕事を押し付けようとも、たまにギャップ効果を起こせば、チャラ。
この認知バイアスはかなり強烈であるため、気付くことはできても、それを振り払うことが難しい。
ちなみに僕は【エポケー】を心掛けて、ふとした言動の結果、無条件にその人を肯定するような気持ちが湧いてきたら、絶対そこで何かを判断しないように決めている。
感情とは波のようなものだ。一度強い揺れが来たとしても、段々落ち着き、その内凪いでくる。気持ちが凪いでから、客観的な目線を心掛けて分析する。
するとシンプルに、普段の失態が1発の優しさでチャラになるわけがないと気付くことができる。それが正しい検証と反省なのではと僕は感じている次第だ。
―尚、目から鱗の発見だったのだが、この【ギャップ効果】は、勉強嫌いの子供に対して有効な手段でもあるようなのだ。
勉強ができない、解けないという子に「わかった!」と思わせたり、テストで良い点を取らせたりすると、その科目、ひいては勉強そのものへの評価がひっくり返るのだ。
そういえば、元々勉強に対して意欲を失っていた子が、指導を通じて成績が上がったり科目の理解度が増したりして、とても前向きになった例はちらほらある。
これもまたギャップ効果で説明がつくと考えると、バイアスというのはつくづく面白いなと改めて思わされる。
・・・ただ、これはちょっとしたドーピングのようなものだ。ギャップ効果によって好きになった科目も、再度躓くといった障害に合うと、厄介な揺り戻しがあるのだ。
それは【ゲインロス効果】という。いわばギャップ効果の反対で、高い評価を自分が持っていたモノに失望すると、とんでもなく低い評価を下すようになるバイアスだ。
「好き」が転じた「嫌い」は、感情として非常に強くなる。これ自体は、僕自身にも体験談がある。
大学3年の頃、3~4か月くらい、我ながら熱心にTOEICの学習に打ち込んだ時期がある。しかし結果は、前回の受験から1点も伸びていなかった。
その結果を受けて完全にがっかりしてしまい、以後二度とTOEICは受験することないままここに至っている。もちろん今も、頼まれたって受けたくないくらい嫌いである。
・・ということで、ギャップ効果で好感度や評価、モチベにバフを掛けても、ゲインロス効果によってひっくり返るリスクはずっと付きまとうのがリアルなのだ。
やはり、成績を上げた後も色々な手を用意しておかねばならない理由として、非常にわかりやすい具体例たるバイアスだと感じている。
ということで今日はこの辺で。