先日、前期の目標を踏まえて反省・検証し、後期に繋げるという趣旨の研修があった。僕自身も思うことだが、何も工夫しなければ、こういう場は大抵不毛になる。
その理由は、例えば半年後のこれに向けて頑張りますという誓いには即座にバイアスが掛かり、結局行動に繋がらず後手後手に回り、同じことをするだけになるからだ。
そのバイアスとは、【楽観バイアス】や【時間割引】である。このそれぞれが強い力を持つのに、ダブルでバフが掛かっているから、そりゃ扱いにも難儀する。
未来はどうせよくなるし、思った以上に時間も盗られないという根拠のない楽観は、本能の一つであり、つまり思考の中でも最強の部類である。
計画倒れが発生しやすいのは、こういった強力なバイアスにより認知が歪められることが大きい。「今じゃなくてもいいじゃん」というブレーキは、想像以上に強いのだ。
そんな厄介と言える楽観バイアスや時間割引についてつらつらと調べていると、ある面白い対策法に行き当たった。
それは、名前が物騒だが、「死亡前死因分析」というテストだ。
今日はそれについて書いてみる。
死ぬ前に死のう。
この問いはまず、例えばこんな設定から始める。
「今あなたが担当するプロジェクトは、1年後に失敗します。なぜそうなったのか、その原因を箇条書きしてください。」
おぉ、なかなかに怖い話だ。だが、ここを起点にすると、自問自答の性質も不思議なくらいに変化する。
僕の例で考えよう。「1年後に、僕は担当の校舎が赤字転落し、撤退を決定されている」と仮定してみる。一体何が起これば、こういう末路になり得るか。
箇条書きしてみると、こんな風になる。
① 広報が不足し、新規入塾生が伸びなかったから
② 成績を伸ばせず、CSが低くなり、競争に負けたから
③ 利益率が低いコンテンツへの依存が止められなかったから
④ 現状維持に甘んじて特に勉強もしなかったから
等々、である。怖い。怖いが、どれもこれも、実はこっそり僕の歩く先に、スター・ウォーズのサルラックの如く待ち構えている未来のようにも思える。
しかし、なぜ「より良い運営をしよう!」というよりも、「最悪の未来を引く要因を考えましょう」という方が、現実的なアイデアが、慄然とする感覚を伴って浮かぶのか。
この要因は色々あるが、僕が面白いと思った根拠は、後知恵バイアスを狙って、しかも良い風に発動させるというものだ。
この後知恵バイアス自体、人の行動が失敗した際に、「だから言ったじゃん」的なセリフを吐きがちというあるあるの原因という、これまた強力で厄介なバイアスだ。
ちなみに、ちゃんとした定義はこんな感じである。
「後知恵バイアス」とは、物事が起きたあとで「そうだと思った」などと、まるでそのことが予測可能だったと考える心理的傾向のことをいいます。
さて。ここだけ切り取れば、生産的な反省や検証を阻害するのみならず、その発言をした人を小物たらしめてしまう、ただ面倒なだけのバイアスっちゃバイアスである。
しかし、これを味方に付けられるとあれば、もはや最強の思考法の1つであると言える。そのために先に未来を確定させるというのは、面白い逆説だ。
ちなみに、難しい話だが、これに際してもう1つ押さえておくべきバイアスがある。それはサンクコスト効果だ。
これはある程度のコストを払ってしまうと、たとえそれが失敗や赤字に転じても、情が移って引くに引けなくなる心理を指す。
この場合は、「あぁ、これはバイアスだ」と認識し、事前に線引きをしておいて、方向転換を厭わないことがコツだとあった。(赤字事業撤退のルール設定に同じ)
こんな風に、より良い未来を引くのではなく、最悪の未来を”引かない”という本能を上手に呼び覚まし、活用する。
「死亡前死因分析」という名前は物騒だが、これくらい地に足を付けた考え方を狙って使えれば、建設的で前向きな思考に繋がるなと、改めて思った。
そういえばこのテストを見て、ある有名なコピペを思い出した。雰囲気しか思い出せないのだが、こんな話だったと思う。
5年前、10年前に戻ってやり直せれば・・という後悔を言う人がいる。じゃあこう考えればいい。「今、5年先、10年先の未来から帰ってきたんだよ」と。
これに初めて出会った高校生の頃は何を言ってるんだと思ったが、今はその意図がスーッと染み込んでくる。
崩壊した未来から帰ってきた魂が、今自分に宿っている。時にはそう念頭に置きながら、考え事を重ねたいと思う。
では今日はこの辺で。