最近、偶然なのかそうじゃないのかわからないが、身の回りで転職ラッシュが起きている。この2週間で、会社内で一例、僕の知人で三例、そういった報告を受けている。
その理由も聞ける範囲で一応聞いてみたが、ざっくり分けると、「泥舟になる前に逃げたい」というものと、「多忙過ぎるのに報われない」という2種類だった。
最初に話を聞いた際は、これら2つは別々のものだと感じていた。しかし実は、同じ状況を違う側面から述べているだけではないだろうか。
例えば多忙なのに、給料も業績も上がらない職場となれば、それは泥舟と評されるように思う。「ならば沈む前に逃げろ」という思考も、ある意味ごもっともだろう。
ところが、同じ多忙な状況なのに、それを充実していると皆が思って、イキイキと働けている職場も存在する。やりがい搾取でない限り、これが最も健全な組織ではないか。
その差はどこにあるのか。あるとしたら、それはどんなバグから生じているのか。この記事で、自分なりの分析を、ある程度までまとめておきたいと思う。
ただ多忙なだけの状況が許されるのは、起業時だけ説。
「ハードワークは先行投資」という言葉がある。僕は起業家の書いた本をよく読むのだが、確かに創業時の秘話は、狂っているとしか思えないほど働いている。
だから一つの帰結が引ける。「多忙こそ成功に必須の要素」である、と。これがもし正解なら、多忙を理由に仕事を辞める人は、全員間違っていることになる。
これは多分だが、【熟達論】の言葉を借りると、”段階が違うだけ”なのだと考えている。すなわち、ある程度までは確かに、多忙こそ成功の要素なのだろう。
右も左もわからない状況で正解を見つける。あるいは基盤が安定していない会社を何とかして軌道に乗せる。そのためにはとにもかくにも、猛烈な行動が必須だ。
そしてこの時点では、RPGで言うところの、操作も世界観もよくわからないままにとりあえず出てきた敵を片っ端から倒すようなものなのだ。
だからレベルは上がり易いし、お金も気付けば溜まっている。ここで鍛えておけば、そうそう倒れないパーティが出来上がる。だから、忙しいことは正しそうだ。
しかし、疑問も浮かぶ。ただ忙しいことを唯一の正解に据えてやっていける程、この世は単純なのだろうか。これはかなりダウトだ。むしろ、成功とは程遠い話だろう。
確かに目の前の敵を延々と倒し続ければ、レベルは上がる。しかしダンジョンを一切攻略せず、現在地で雑魚敵を狩り続けても、効率はどんどん落ちていくだけだ。
経験値が1の敵を10体倒すか、経験値が10の敵を1体倒すか。この辺を履き違えると、いたずらに時間ばかり食われるのに、成果に乏しい絶望的な状況に陥る。
僕はこれこそ、人が逃げる多忙さ、つまり泥舟だと感じている。労働力という資本の投資に対し、見返りが圧倒的に少ない状態。時間も自由も体力も溶けていく。
僕のいるところも、この傾向が始まっていないかと言われれば、正直、結構その性質は帯びつつあるというのを感覚として持っている。
僕は確かに忙しい。だが、それが健全な忙しさだとは思わない。まだまだ無駄が多いのを感じている。そしてこの無駄遣いを止められないから、忙しさが減らないのだ。
ガムシャラに敵を倒せばよかった段階を超えると、成果や報酬を設計することがとても難しくなる。レベルを上げなければならないのに、大部分が据え置きになっている。
この状況のマズさは、僕の場合、RPGゲームを例に考えるとわかり易かった。腑に落ちた今、目の前の状況を見て、どうすればいいかを考える必要があることも悟った。
では、それはつまり何をすればいいってことなのだろうか。こんなもの、考えても出てくるわけが無い難問だ。当然、答えは僕も持っていない。
こういうときは、ひたすらにインプットだ。何か具体的な行動を閃くまで、本やインタビューで読んだ例を、ここから雑多に書いていきたいと思う。
充実は、運か、はたまた職人技か。
ハチャメチャな仕事によって軌道に乗せた組織が次に取り組むのは、より大きな仕事の創出だ。【リーダーの仮面】では、マンモスの討伐を例に出していた。
マンモスを倒すには、知力・体力のレベルもある程度必要だし、より優れた武器を作るスキルも求められる。まさに序盤のステータスでは勝ち目のない強敵だ。
しかし討ち取ることができれば、美味な肉、大量の毛皮など、それに見合った利益を得られる。だからそのリスクを天秤にかけて、人はマンモスに挑んできたのだ、と。
現代では、このマンモスを自ら創造し、チームに示して、まとまりを作るリーダーが求められるとされる。実は腑に落ちていなかったこの話、今はすごく身に染みている。
雑魚敵ばかりを狩り続けても、成長は鈍化し、成果は乏しい。掛かる時間ばかりが増えていき、組織としてどんどん疲弊していく。
だからこそ、そんなレベルのモンスター討伐に時間を掛けず、チームのレベルにあったステージを示し、全体のレベルをきちんと高めていく。
それは同時に、報酬を適切に設定できるということでもある。無理難題を押し付けず、それでいて簡単すぎる目標を示すわけでもない。常に現状より少し先を考えるのだ。
こう考えると、組織がイキイキとしている状況というのは、まさにリーダーの手腕だと言えるだろう。僕は僕だけが多忙な状況で働いていたが、これはもはや三流だ。
僕の校舎は、今もまだ泥舟だ。この状況を、一発逆転という最悪手を取りたいという誘惑に打ち克ちながら、少しずつ打開していかなければならない。
現状維持は衰退を意味する。今とは比較にならないほど、僕はここに敏感にならなければいけない。本当に、まもなくチームごと殺してしまう。
僕如きはチームで戦わないと勝ち目がない。もっと開けっ広げに現状を公開し、全員で追えるマンモスを示さねばならない。
じゃないと僕もまた泥舟認定”される側”になってしまうだけである。これは怖すぎる話だ。それでいて、他人事でも無ければ、絵空事でもない。
杞憂というにはあまりにも現実的だ。今、猛烈にビビっている。早速今から僕ができることは何か。それを見つめ直す非常にいい機会となった。
では今日はこの辺で。