昨日の集団授業終了後、ちょっと生徒同士のボヤがあった。全員が帰り支度をする中、とある生徒(以後Aくんとしよう)が、隣の席の生徒(以後Bくん)に突っかかったのだ。
A『さっきなんで俺のことみて笑いおったん?(怒)』
てな感じ。まぁ言葉尻だけならイチャモンの類なのだが、少し状況を説明しておく。
Aの隣に座る『Bくん』は、いわゆる"落ち着きがない子"であり、結構頻繁に自分の世界に陶酔する。
また、ずっと身体を揺すったり、椅子で左右に揺れたり、突発的に答えを口走ったりと、そういう行動をしてしまうタイプなのだ。
で。どうやらBくんは演習中にこっそり『変顔の練習』か何かをして遊んでいたらしい。そしてその目は、マスクをした状態だと『非常にニヤついていた』そうだ。
その顔をしたまま、先に挙げた行動の1つである椅子の左右回しを行ったらどうなるか?
・・・Aくんにとっては、『ニヤニヤした顔で何度もこっちを見られた』という状況が出来上がる。
ちなみにこの出来事は、問題演習中の一幕であり、僕が他の生徒の質問に答えていた最中に起きた。時間にすれば1分ちょい。
つまり、どれだけ気を付けても絶対に起こり得るシチュエーションである。完全に防ごうと思ったら、集団授業が成り立たなくなる。二律背反。トレードオフ。
・・話を戻します。
この一件で民法的な解釈をすれば、Bくんは相手に不快な思いをさせる意図がゼロのため、ある種無罪である。だが、Aくんにとっちゃに良い心持はしないですわなぁ。
スルーすればAくんの不満は残るし、怒ればBくんが損をする。なんだこの王手飛車取り状態は・・。
で、こんな七面倒な状況で、僕はどうしたか。こっからはその話について書いていきましゅ。
始めに。
僕は割とヘタレで豆腐メンタルなのだが、こういう緊急事態だと、なぜか不思議なまでに冷静になることができる。自分でも意味が分からないけど、今回もそうだった。
一瞬だけ『あー、たいぎーやつやん』と思ったが、その直後にパッと閃いたのは、『教室運営におけるトラブルと対策がまとめてあった本の内容』である。↓
結構前に読んだので仔細は若干違ったが、僕はその二人に対して、『本にあった通りに対処してみよっと』と即座に決断したのであった。
STEP1 間に入る。
まずやったことは、二人の間に身体を入れるということ。向かい合っていればイライラは増幅するし、手を伸ばすだけで攻撃が入る。それを防ぐためだ。
その上で『落ち着け、落ち着け』と二人をなだめ、他の生徒をさっさと帰らせてから、次の行動に移った。
STEP2 それぞれの言い分を聞く。その間相手に口は挟ませない。
その上で言い分を聞いた。この際はカッカしている方からとあったので、まずはAくんから話を聞いてみる。
A『彼が問題を解いている僕を見てずっとニヤニヤしていたんですよ!!』
―声が大きかったので、ここでも釘を刺した。
僕『落ち着け、もう少し小さい声で良いから。まぁ、よし、お前の事情は分かった。』
的な。その上でBくんの言い分も聞く。
B『お、思い出し笑いだよぅ』
という感じ。そしてそれだけ言い捨ててそそくさと帰ろうとしたので、それを速攻僕が制した。
ここで逃がしたら指導の意味が皆無になる。また、下手すればAが『待てや!』とヒートアップする。だから僕が動いたという話。
こんな感じで双方の言い分を聞いたうえで、次の声掛けに移る。
STEP3 お互いの主張を代弁する。
―ここで、実はこの一件、割と厄介な状況なのを思い出してほしい。Aくんがイラついたのは、Bくんにとっては無自覚の行動であるという点だ。
例えばあなたが、自分でも意識していないクセに対し、『ムカつくんだよ!』と絡まれたらどうだろうか。それと同じ状況である。
だから一瞬だけ考えた。Bに謝らせるのは多分最適解ではない。ではどうするか?少し考えて、以下の様に返してみた。
僕『なるほどな、思い出し笑いか。それは誰でもするから仕方ないな。でも、人の方を向いてやるものでもないよな?』
―そしてここで、『・・・はい。』と言うまで『な?』とだけ2回言ってまで、待った。Yes,butからのYesセットを狙うためである。尚、これは心理学の話。
その上で、
僕『何げない行動でも、それが人によくない印象を与えることがある。顔を見られてニヤニヤされると俺だって良い気はしない。だから、それは今後気を付けるんだよ。』
B『・・・はい。』
僕『これからは、そうやって人の方を向いている場面があったら止めるようにする。少しずつ頑張ろうな』
B『・・・はい。』
という感じ。すごく人情的なやり取りに見えるが、僕がこっそり、割と『サイコパス』なことをしているのに気づかれただろうか。
まず、やり取りを始めて速攻で、『Bくん自身』ではなく『行動』に論点を変えた。
そして、言い分を『なるほど』と受け止めつつ、『でも人の方を向いてやるものでもないよな?』と問いかけ、『はい』と言わせる圧を掛ける。
不思議なもので、一度『Yes』と言わせると、後の問答も『イエス』という率が高くなる。これをイエスセットという。
そして段々会話の温度を落とし、最終的には『なんか納得して終わった感』を出しながら、クロージングを図ったという次第である。めでたし、めでたし。
STEP4 鎮火。
では、残ったAくんはどうするか?ここで『よし、終わり!』と帰らせると、『俺、構ってもらってない・・』という不満を抱えさせてしまうことになる。
さて。このAくんは結構な体育会系であり、理性よりも情で動いたり考えたりするタイプの性格だ。だから、Bくんを帰らせた後、二人きりで話をすることにした。
僕『・・珍しいな、お前があそこまで熱くなるなんて。なんか学校であったか?』
Aくん『いや、そんなんじゃないですけど・・。』
―てな感じで、『でもムカついたんですよ』と言いたげな間ができたので、先打ちしてみた。
僕『言いてぇことはわかるよ。顔見られて笑われたら、良い思いなんて誰もしない』
『でもま、これも社会勉強ってヤツだな。イライラしたときは感情のままにあたるんじゃなく、平和的なやり方も、段々身に着けていこうな』
Aくん『わかりました。今はもう、大丈夫です。』
僕『じゃあこの話の蒸し返しは、もう無しな!さっきBに伝えた通り、これからはそういう思いを君らがしないよう、俺も声掛けするからさ』
Aくん『わかりました!』
こうして彼もまた、スッキリ帰っていったという次第。ま、僕はAくんと出会って2年経つからこそ、こういう話が響いたんだと思うけど・・。
ここでも恥ずかしいが解説すると、『出来事そのもの』に目を向ける限りイライラは募るので、『社会勉強しよう』という論点にこっそりズラしているのがまず第一作戦。
その上でAくんのストレスに同意しつつも、Bくんではなく『顔を見て笑う』という行動が好ましくないことを強調しておいた。
ちなみにこれは、教育者として子どもを悪にしない!・・・という理念からではなく、『Bくんが悪いと先生が認めた』という言質を取られないため、である。
もしこの言質を取られると、仮にこの話が拗れに拗れて両家の保護者を巻き込むものにまで発展した際、非常に面倒なことになる。
立場を表明した手前、僕はAサイドとして、否定しちゃったBサイド徹底してと戦うことにならざるを得なくなるのだ。つまり、当事者にされちゃう、と。
あくまで講師は、『ジャッジ』に徹せねばならない。経験則としてこの辺は結構身に付き始めている。
・・・閑話休題。そしてまだ、火消しは終わらない。
全生徒が帰ったのを確認し、上記の仔細、もちろんキッチリ上司に報告を入れた。この一件を僕"だけ"の責任にしないためだ。
幸い校舎長は、情報を徹底して共有することを望むタイプなのでこの時点での駆け引きは特に発生せず。僕の話をふむふむと聞いたのち、
『年明けだな。年明けに、ちょっと俺から二人に話するわ』
という結論になりましたとさ。抱え込みは本気で精神を病むので、報告ごとはマジでブロック経済状態にしないことを気を付けたい。
・・・はい。こういうトラブルへの身の処し方を、生まれつきの才能や、我流で習得できるだろうか?僕は微塵もそうは思わない。
そして、これを『知識』として持っている教師や講師も、そこまで多くはないのではなかろうか。これのガチな研修とか、やってる例を僕は知らない。
てなわけで年末に書くテーマではないのだが、平常運転が僕の基本スタンスなのでよろしくです。
じゃ、今日はこの辺で。良いお年を。
※冒頭に紹介したこの本は、非常に実践的なテクニックが使用例・理由と共に満載なので、中学生までを指導対象にしている方は必読レベルだと思う。オススメ。