昔読んだ、廃墟訪問ブログで、1つとても印象に残っているものがある。(勿論これは不法侵入なので刑事罰に問われかねないのだが)
それは、廃墟の引き出しを開けた際に出てきた、膨大な日記の山だ。さすがにあちこちがカビて、湿気ており、状態自体はとても悪かった。
jukukoshinohibi.hatenadiary.com
しかし内容自体を判読することは可能で、それを見ていると、そもそも人に読まれることを想定していない、とても私的な内容が書かれていることが分かった。
そしてそのとき、得も言われぬ不思議な感情を持ったのを覚えている。知られることがないはずだったものを知ったという事実。悪趣味だが、それは快いものだった。
だから、人は隠したくなる。だから、人は知りたくなる。暗号を巡るやり取りは、意外と人間の本能的なところに刺さっているのかもしれない。
それを前提として、今週も読書を始めていくことにしよう。
- 8月26日(月) 暗号自体のコモディティ化。
- 8月27日(火) 謎の男・ビール。
- 8月28日(水) 世に解き放たれた謎。
- 8月29日(木) 「探せ!」
- 8月30日(金) ビール暗号とは。
- 8月31日(土) 夢は終わらない。
- 9月1日(日) 狂奔が紡ぐ歴史。
8月26日(月) 暗号自体のコモディティ化。
暗号がポピュラーになった一例として、19世紀末から流行し始めた推理小説が挙げられる。
ドイルはその作品に度々暗号を登場させ、それを鮮やかに解読するホームズという展開を描いていた。
また、エドガー・アラン・ポーは単暗号方式のそれを読者から広く募り、それに片っ端から挑戦しては完勝した、ということをしていたという。
子供遊びに過ぎなかった暗号が、社会に広く浸透していく時代。そしてその端的な例が、この後登場するのであった。
8月27日(火) 謎の男・ビール。
その男・ビールは、恵まれた容姿と日焼けした肌を持つ、絵に描いたような好青年だったという。
彼はとあるホテルに突然現れると、そのままひと冬の間ずっと滞在し、そして気候が温かくなると、出現と同じくらい突然、その姿を消したのだ。
しばらく経つと、日焼けの度合いを増したビールは、再びそのホテルに現れた。彼はそこの支配人を信頼していたのか、意味深な小箱とメッセージを彼に託したのだ。
箱にはビールとその仲間の財産に関する重要書類が収められている
仲間が一人も戻らない場合、この手紙の日付から10年間は箱を保管してもらいたい。その10年の間にビールないしビールに委任された人物が箱の返却を求めない場合、錠前を破壊して箱を開けてもらいたい
箱の中にはモリス宛の手紙と暗号化された文書が入っているが、文書は手がかりになるものがなければ解読できない。その手がかりはビールが友人に預けてあり、1832年6月以降に送られてくるはずである
この暗号が後の世に何を残すのか。それはここから読み進めてからのお楽しみである。
8月28日(水) 世に解き放たれた謎。
ビールは謎の箱を託したまま、二度とそこに帰らなかったという。そして彼が「届く」と保証した手紙も、ついぞ届かなかった。
ビールが遺した言葉を忠実に守り、オーナーは10年を経てから、その箱を開封した。中には三枚のノートびっしりの暗号が残されていたという。
そしてその小箱の中にあるビール自身の説明によれば、それは文字通り、宝の在りかを示したものだというのだ。
にわかにフィクションみを帯びてきた話だが、そのワクワクには暗号が相応しいという、その好例だといえる。
8月29日(木) 「探せ!」
The Thomas Beale Cipher(トーマスビール暗号) – Nobuyuki Kokai
一個人に宛てられたはずの暗号が、どうして後世に残ったのか。それはホテルのオーナーの相談を受けた、今は名前が歴史上から忘れ去られた、とある人物の恩恵だ。
その人物は、オーナーが残りの人生の短さを悟ったタイミングで相談を受けたそうだが、暗号そのものを複製し、冊子にまとめて、出版に至ったという。
このまま忘却の彼方にやってしまうくらいなら、暗号を解けるほどの叡智を持った人に、それを授けるのが相応しい。そんな風に思ったのだろうか。
恐らく、この時点ではビールもその仲間も、誰一人この世に残っていないだろう。そういう背景もあったのかもしれない。
とにかく、この行為こそ、ワンピースの始まりみたいなドラマが動き始めた瞬間なのには間違いない。
8月30日(金) ビール暗号とは。
ビール暗号は、鍵となる文章がないと解けない代物だった。番号とアルファベットが、特定のそれと対応しているためだ。
例えば「163」と書かれていれば、対応する本の163番目に出てくるアルファベットに置き換えろ、という意味である。
完全に規則の無い数値の羅列から、何かしらのメッセージを汲み取り、そして解読すること。叡知を終結しても、それは可能なものなのか。
ネタバレになるが、暗号は2024年の今現在も未解読のままであり、そもそも逸話さえフィクションなのではと言われる始末だ。
僕はまだロマンを見たいのだが、真偽含めて、生きている内にそれは叶うだろうか。
8月31日(土) 夢は終わらない。
ビール暗号の解読は、次第に世代も範囲も跨ぎ、どんどんと大規模なものへと変化していった。
ただ、第二の暗号以外は解読の糸口すら掴めず、またそもそも第二の暗号を破った手段が、他にも通じる保証も無かったのだ。
諦めるもの、粘るもの、斜に構えるもの、静観するもの。あらゆる派閥が登場し、その暗号へ巻き込まれていく。
それを解いたら莫大な財産が在るというが、それはもはやどうでもよく、中身を知りたいという好奇心が勝っているように僕は感じている。
9月1日(日) 狂奔が紡ぐ歴史。
ビール暗号があまりにも難攻不落であることから、そもそもがデマである説、国家組織が既に回収した説も流れ始めた。
こうなると、賑わいは俄然強くなる。否定派が現れれば、否定派を論破する勢力が現れ、また逆の勢力が盛り返すためだ。
現代でいう炎上のような有り様が、1900年かそこらの時代に起きていた。だから今も語り継がれているのだ。
そう思うと、何がどうなって歴史に残るかなんて分かるわけ無いのだから、短期的視点の不毛さがまた深く理解できたと感じている。
では今週はこの辺で。